1. Index
  2. Novel
  3. テニスの王子様
  4. 菊リョ菊
  5. Ownership

Ownership

いつも明るい貴方だから
いつも周りに誰かがいて
貴方は誰からも好かれている
 
ホントは自分だけのモノにしたい
 
たくさんのライバルたちに
貴方は俺のだと
手を出すなと
はっきり言いたい
 
こんな事を言ったら
 
貴方はイヤですか?

 
 
 
 
 
 
 もうすぐ12月になろうかというこの時、ある意味青学男テニ部は殺気立っていた。
「菊丸先輩」
 呼ばれて振り向いた先に居たのは小さな身体。
「なぁに?」
 小さく首を傾げて問い返すと、相手は僅かに動きを止めた。
「おチビ?」
「え…あ、今日…」
 呼び返されて止めてしまっていた時間を慌てて動かそうと越前は視線を彷徨わせる。
 見とれてしまった一瞬を取り戻す言葉を捜そうと俯いた瞬間――。
「英二、今日一緒に帰らない?」
 横から飛び込んできた言葉。
 そちらを見やれば、菊丸の親友の姿があった。
「あ、不二」
「一緒に帰ろうよ。明日誕生日でしょ? 明日も特に何もなければ部活の後遊びに行かない?」
 不二の言葉に、菊丸は無意識に越前へと視線を向けた。
「あ、英二先輩。見たいって言ってた明日からの映画の前売り、取れたんスよ。一緒に行きません?」
 不二の言葉に触発されたのか、明るく菊丸に話しかける桃城。
「桃…いい度胸だね?」
「不二先輩ばっかりズルイっスよ」
 不二にニッコリと微笑まれて、ちょっと逃げ腰になりながらも桃城は負けじと反論する。
「何が狡いのかな?」
 不二の周りの温度が下がり始めたのをよそに、菊丸に話しかける男がまた一人。
「英二。今日の反省かねて、一緒に帰らないか? 明日もなんなら一緒に……」
「大石…何を横からしているのかな?」
 ますます気温を下げる不二に、大石もまたニッコリと笑い返す。
「別に、不二に了解を取る必要はどこにもないだろう?」
「言うね……」
 一角でえらく気温を下げる三人を尻目に、他の部員たちは無言で着替え、部室を後にするのだった。
 一人を除いて――。
「おチビ? さっき呼んだよね?」
 小さく笑いかける菊丸に、越前は何か言いたげだったが、俯き小さく首を横に振る。
「別に…もう…いいっス」
 その様子に、菊丸は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「おチビ……」
 菊丸が何かを言おうと口を開いた瞬間、菊丸は腕をつかまれそちらを振り向いた。
「英二はどうしたい?」
 ニッコリと微笑んできたのは親友の姿。
「不二?」
 きょとんとして聞き帰す菊丸に、不二は小さく苦笑を漏らした。
「英二は誰と帰りたい? 誰と誕生日を過ごしたい?」
 不二の言葉に、菊丸は一瞬言葉をつまらせるが、すぐにいつものように明るい表情を浮かべた。
「なになに? 皆して俺の誕生日、祝ってくれるって? うっれし~な~♪」
 そんな風に明るく笑う菊丸を越前は見つめてから部室のドアに手をかける。
「お先っス」
「あぁ、お疲れ」
「気ぃつけて帰れよ?」
「変な寄り道はしないようにな?」
「えっ?」
 越前の挨拶に、あまり意識ない返事を返す三人とは別に、戸惑いの声を上げたのは菊丸英二。
「ちょ…おチビ!?」
 慌てて振り向いた先には、越前によって閉じられた扉があるのみだった。
「ゴメン、俺帰るね!」
 鞄を取って扉に向かう菊丸の腕は、やはりもう一度つかまれていた。
「不二…離して?」
 瞳を見つめられて不二の腕が弛んだ瞬間に、菊丸は腕を振り払い部室から出ていた。
 
 
 
 校門まで走ってきて、あたりを見回す菊丸の耳に、生意気な声が飛び込んできた。
「遅かったっスね」
 視線をやれば、ソコにいたのはファンタに缶に口をつけている青学ルーキーな生意気な後輩でもあり、大好きな恋人の姿。
「おチビ、帰ったかと思った…」
 菊丸の言葉に、越前はかすかに俯いた。
「帰ろうかと思ったけどね…」
 目線を逸らし、小さく呟かれた言葉に、菊丸は寂しそうに笑みを零した。
「おチビ…俺はね…」
「ま、いいや。帰りましょ?」
 わざとだろうか?
 菊丸の言葉を遮るように問いかけられた言葉。
 同時に差し出された手を、菊丸は見つめる。
 そんな菊丸にじれたのか、越前は手をグッパしてみせる。
「ホラ、先輩?」
 その越前の様子に、菊丸は笑みを浮かべ、自分の手を重ねるのだった。
 
 
 
   ジリリリリ…
「う~……」
 妙なうめき声を上げながら、菊丸は手探りで目覚ましを止める。
 それから五分後にもう一度鳴った目覚ましに諦めたのか、もぞもぞと起き上がった菊丸は、冷気で目を覚まそうと窓に手をかけ、家の前に佇む小さな影を見つけた。
「あれは……?」
 思わず漏れた言葉に、まさか、と言う思いで頬をたたいてみるが、やはり目は覚めているようで……。
 今、目の前で起きていることが現実だと判断した途端、菊丸はパジャマ姿のまま階段を駆け下り、玄関のドアを開け放っていた。
「おチビ!」
 名を呼ばれ、越前は笑みを浮かべると、菊丸にニッコリと笑いかける。
「はよっス」
「あ…うん。おはよ…」
 思わず挨拶を返してから菊丸は何か違和感を覚えた。
 いつもどおりの小さな身体。
 厚手のコートを着ていて。
 首元にはマフラーをしていて。
 手はコートのポケットに突っ込まれていて。
 コートの下から覗く足はジーンズに包まれていて。
 ………ジーンズ?
「おチビ…何で制服じゃないの?」
 至極当然な質問を口にする菊丸に、越前は不敵に笑って見せた。
「……おち…び?」
 突然のサボりを促す言葉に、菊丸は戸惑いを隠せないまま問い返す。
「今日、サボりませんか? 二人で先輩の誕生日パーティー、しません?」
 小さな恋人の、甘いお誘いに、菊丸の口元に知らず笑みが浮かぶ。
 目の前には不敵に笑いかける大好きな恋人。
 部活も学校も大事なのはわかっているけれど。
 菊丸の心が選ぶ答えは一つしかなかった。
「うん!」
 
 
 
 着替えた菊丸を越前が連れて行ったのは、越前の家。
「おチビ…家の人は?」
「夕方まで誰も帰ってこないっスよ?」
 その言葉に安心したのか、菊丸は越前にニッコリと笑いかける。
「サボっちゃったね」
 言葉には出さず、ニッと笑う越前は、菊丸を自分の部屋へと案内する。
「二人だからそんなに派手じゃないけど…」
「だいじょぶだよ」
 越前の言葉に嬉しそうに笑う菊丸の前にショートケーキを差し出した。
「二人だし、こんなんでもいい?」
 嬉しそうな笑みを崩さない恋人に安心したのか、越前は優しい笑みを浮かべた。
「先輩、誕生日おめでとうっス」
「ありがとう♪」
 幸せそうに微笑う菊丸に、越前も笑みを浮かべると、二人はささやかなパーティーを始めた。
 ケーキを食べ、お菓子にも手をつけ、他愛もない事を話しながら、机を挟んで座っていた二人はいつの間にか隣に座ってもたれ合っていた。
「ねぇ…おチビ?」
「なんスか?」
 菊丸の髪を指に絡めながら越前は菊丸を促す。
「どうして…昨日部室で何も言わなかったの?」
 菊丸の言葉に、越前は無言で髪を弄り続ける。
「不二たちに誘われている俺に、どうして何も言わなかったの?」
 少し寂しそうに問いかける菊丸に、越前は小さく息をついた。
「先輩でしょ? 俺達が付き合うようになっても、皆に言うのはイヤだって言ったの」
 攻める口調ではない越前のセリフだったが、菊丸は黙ってしまう。
 付き合い始めた頃、確かに自分が言ったのだ。
『まだ誰にも言わないで』と。
 だけど……。
「そう…だよね。でも、俺は……」
 口を開きかけたが、黙り、俯いてしまった菊丸に、越前は言葉を続けた。
「ホントは、ちょっと妬いただけだけどね」
「…え?」
 僅かに顔を上げる菊丸の髪に指を絡めたまま、越前は続ける。
「誰にでも愛想いいし、皆に好かれてるし、ライバル多いし、先輩は皆に俺達の関係言っちゃダメって言うし…」
 この天邪鬼な恋人の、珍しい本音に菊丸は無意識に笑みを浮かべる。
「ホントは俺のものだって言っちゃいたい。ねぇ、まだ言っちゃダメっスか?」
 至近距離で見つめられて、菊丸は僅かに頬を染めながら、越前に優しく微笑んだ。
「いいよ。皆に言っても」
「先輩…ホント?」
 窺うように問いかけられて、菊丸は自分の髪を触る越前の腕に、自らの手をかける。
「うん。おチビ…大好き」
 柔らかな笑みと共に告げられた言葉に、越前は一瞬照れたように目を見開いた後、髪に絡めていた手を頬へと移動させた。
 頬を優しく撫でる感触に、菊丸はくすぐったそうに笑った後、静かに目を閉じる。
 ソレを合図として越前は菊丸に触れるだけのキスを贈った。
 すぐに離れたキスに二人は間近で笑い合うと触れるだけの啄ばむようなキスを繰り返し始める。
 クスクスと笑い合いながら交わされるキスは、次第に深いものへと変わっていくのだった――。
 
 
 
「ねぇ、おチビ? ちょっと外行かない?」
「え?」
 多分部活の真っ最中であろう時間に菊丸が口にした言葉に、越前はきょとんとした表情を浮かべた。
「ごめん~、今日新刊の発売日なんだよ~」
 申し訳なさそうに両手を合わせてお願いポーズで上目遣いをされて、越前に敵うはずもなく…。
「いいっスよ? そのかわり…」
 ため息を一つついてから、越前は菊丸からキスを奪った。
「今の、お駄賃ね」
 小さく舌を出し悪戯っぽく微笑う越前に、何度もしたキスのはずなのに赤くなる菊丸。
 その様子に満足したのか、越前が不敵に笑った後、立ち上がり菊丸と共に家を出た。
 二人が他愛もない会話を交わしながら本屋へ向かい、目的のものを手に入れ店を出た瞬間――。
「あーっ! 英二先輩っ!!」
「英二っ!!」
「なんで越前と一緒なの!?」
 背後からの突然の声に振り向けば、部活の真っ最中のはずの桃城・大石・不二の姿。
「げっ…みんな…」
 思わず後ずさる菊丸に、越前は小さく問いかける。
「もう、隠さなくてもいいんだよね?」
 びっくりしたように越前を見やった菊丸は、笑みを浮かべ小さく頷いた。
 その反応に満足そうに微笑うと、越前は三人に不敵な笑みを向ける。
 何かいやなものを感じたのだろう、小さくつばを飲み込んだ三人の耳に、越前の生意気な声が飛び込んできた。
「菊丸先輩は、俺のっスよ? 手ぇ、出さないで下さいね?」
 言葉と共に菊丸のマフラーを引っ張り触れるだけのキスを交わす越前と菊丸。
「「「「!!!!」」」」
 驚いたのは何も三人だけでなく、キスをされた本人である菊丸も同じ事。
「おチっ…おチビっ!!!!」
 口元を押さえて真っ赤になる菊丸の腕を取り、呆然としている三人を残して、越前は自分の家へと足を進めた。
「ちょ…おチビぃ…」
 真っ赤な顔のまま、引かれる腕に逆らう事無く歩く菊丸の腕を勢いよく引っ張り、越前は菊丸の体勢を前のめりに崩させた。
「う…うわっ!」
「誕生日、おめでとうございます。好きです。誰よりも…」
 前のめりになった菊丸の耳元で、囁くように言葉を紡ぐ越前。
 その言葉にさらに真っ赤になると、菊丸もまた、越前の耳元に言葉を落とす。
「ありがとね…俺も大好きだよ…」
 越前は軽く視線を周りにやり、誰もいないのを確認すると、静かにキスを交わすのだった………。
 
 
 
 
 
 
やっと言えた大切な言葉
 
貴方はモノではないけれど
俺だけの貴方であって欲しい
 
他の誰がライバルでも
貴方だけは譲れない
 
貴方が望んでくれるなら
俺の所有権を貴方にあげる
だからどうか
許して欲しい
どうか俺に権利を下さい
 
特別な貴方の所有権を
誰よりも大事な貴方だから
 
 
Happy Birthday Eiji Kikumaru
 
 
 
 
 
 
END

 
 
初書き 2002/12/23