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  5. 大輪の花

大輪の花

いつまでも忘れたくない
貴方とココに来たことを
貴方が隣で微笑んでいた
楽しそうに
嬉しそうに
いつまでも離れたくない
 
そう
貴方の笑顔のそばで

 
 
 
 
 
 
「おっチビ~~~♪ 明日の夜、空いてる?」
「ぐえっ!!」
 セリフと共に突撃を食らった挙句、絞める…もとい、抱きしめられて俺は蛙の潰れた様な声を上げてしまった。
 こんな事をしてくるのは一人しかいない。俺の(一応)恋人、菊丸英二。
 俺が潰れないよう、必死で踏ん張ってるのにやっと気がついたのか、彼はやっと腕の力を緩めた。
「お、おチビ~!! ちょ…だいじょぶ!?」
「……大丈夫っスけど、何スか、いきなり…」
 俺の顔を慌てて覗き込んでくる先輩の表情がかなり必死で、ちょっと…いや、かなり嬉しいかも……なんて事、つけあがるから教えてあげないけどね。
 それでも、俺がそんなに怒ってないのを見て、ちょっと安心したのだろうか、いつもの明るい笑顔でニッコリ笑ってくる。
「おチビ、今日の夜、ヒマ?」
 そー言えば、突進してくるときもそんな事言ってたな。
 今日は特に見たいテレビもないし、母さんも特に何も言ってなかったっけ。
「…多分ね」
 ちょっと考えてから言った俺のセリフに、先輩は嬉しそうに微笑う。
「ね、花火見に行かない?」
「花火?」
 花火ってあの花火だよね? 俺はTVでしか花火は見たことがない。でも、日本の花火見てみたかったんだ。
「そ、花火」
「見てみたい!!」
 思わず叫んだ俺の言葉に、嬉しそうに笑いながら先輩は俺の顔を覗き込んだ。
「もしかして、生で見たことなかったりする?」
 思わずコクンと頷いた俺に
「じゃ、今夜見に行こ? 花火大会」
 そう言ってもう一度ギューッと俺を抱きしめた。
 
 
 
「おチビっ! こっちこっち!!」
 大きく手を振る先輩に、小走りでかけ寄ると、頬に冷たい何かを押し当てられた。
「冷たっ……ファンタ?」
「あげる」
 ニッコリと差し出されたファンタを受け取って、俺は先輩を見上げた。
「遅れてスンマセン…」
「いーよ。そんなに待ってないから。行こっ!」
 そう言いつつ、差し出された手を取り、片手にファンタを持ち俺達は歩き出す。
 
 
 
 途中、色々ある出店を覗き、何やかんやと食べ歩き、遊びまわった。
「何か、今日のおチビいつもよりはしゃいでるね」
「そっスか?」
 素っ気無く言ってみたけど、ホントは凄く楽しい。
 だって、初めての日本のお祭りを、大好きな先輩と過ごしてるんだよ? 楽しくないワケないじゃん。
 そして、お祭り好きな先輩もいつも以上に生き生きしてて、楽しそうに俺に色々説明してくれるのも凄く嬉しい。
 なんて、つけあがるから絶対教えてあげないけどね。
 
 
「あ、おチビ。そろそろ行こっか?」
 そう言って先輩が俺を振り向いたのは、PM7:20。そう言えば、さっきから『もう座るトコないかなぁ』なんて言いながら花火会場に向かっていく人が何人かいた。そんなに人が多いのかな?
 そんなに人が多いなら、このままここにいてもいいのに……。そんな思いが顔に出たのかもしれない。先輩に鼻の頭をピンッとはじかれた。
「だいじょぶだよん♪ こっちおいで、おチビ」
 先輩に手を引かれて着いた場所は、人気のない、だけど花火会場が見渡せる丘の上。
「ここは…」
「俺のとっときの場所」
 そう言って座り込むと、自分の隣をぽんぽん叩く。どうやら座れって事らしい。先輩の隣に腰を下ろして、俺は先輩を見上げた。
「俺に教えてよかったの?」
 俺のセリフに、ちょっとびっくりしたような顔をした後、いつもの元気一杯の笑顔じゃなくて、柔らかいふわっとした笑みを浮かべる。
「おチビだから、教えたかったんだ。おチビには、知って欲しかったんだ」
 そう言って先輩が俺の頬に手をかけた瞬間――――
 
 
 
   ドーン
 
 
 
 花火が上がった。
 
 
 
 
「たーまやーってね」
「…………スゴイ…」
 先輩は呆然と呟いた俺を楽しそうに見ながら、俺の肩に手を置いた。そのまま先輩の方に引き寄せられて、俺は素直に先輩に身体を預けた。
 しばらくの間、俺達は黙って花火を見ていた。先輩のぬくもりを感じながら――――。
「……夢みたい」
「うにゃ?」
 思わず漏れた俺の呟きに、先輩は俺の顔を覗き込む。
「何が?」
 ホントは口に出すつもりはなかったから、聞き流して欲しかったんだけどな。でも、今日くらいいっか。
「……先輩とこうして花火が見れるなんて夢見たい…。誘ってくれてありがと……」
 恥ずかしくて、最後のほうは小さくなったけど、ちゃんと聞き取ってくれたみたい。だって、凄く嬉しそうに笑ってくれたから。
「俺も嬉しいよ。こうしておチビと一緒に花火が見れて。おチビが喜んでくれて。俺のほうこそ、ありがとね、おチビ」
 その言葉と共に、先輩の手が俺の頬にかかった。そのまま落ちてくる優しいキス。
 俺達の後ろで、花火がクライマックスを迎えようとしていた――――。
 
 
 
 
 
 
ずっと貴方と一緒にいたい
貴方の優しさが
貴方の明るさが
貴方の温かさが好きです
普段は恥ずかしくてこんな事言えないけど
いつまでも貴方と一緒にいたい
また二人でココに来よう
来年も、再来年も、10年後も
ずっと貴方の事が好きだから
 
 
空に咲く大輪の花に誓って――――
 
 
 
 
 
 
END

 
 
初書き 2002/08/08