星空の下で
アナタは気づいていないでしょ?
俺がこんなにアナタを気にしてる事
ねぇ…少しでいいから俺の事
見てほしいって思うのは
気にしてほしいって思うのは
俺のワガママですか…?
俺がこんなにアナタを気にしてる事
ねぇ…少しでいいから俺の事
見てほしいって思うのは
気にしてほしいって思うのは
俺のワガママですか…?
本日は終業式。青学男子テニス部もご多分に漏れず、浮かれている者、通知表を嘆く者、暑さでバテる者、様々である。
そんな中、コート整備の後でファンタを飲んできたせいで一人遅れて部室に入った越前の眼に入ったのは、いつもの3ー6コンビの姿だった。
「……お疲れっス」
「あぁ、越前。お疲れ様」
「おっ疲れー、おチビ」
ドアを開けた越前に声を返すと、二人はまた顔を寄せあって談笑を再開する。
軽く頭を下げてから帰る準備を始める越前に、いつの間に近寄ったのか菊丸が背後から抱きついた。
「ねぇねぇおチビ、通知表どだった?」
「……別に」
視線を菊丸には向けずそっけなく言い放つ越前に、不二はいつもの笑みを浮かべる。
「英二の方が悪かったりして?」
「あ~!! 不二ひっど~い!!」
「クス、冗談だよ」
じゃれあう二人を横目で見ながら、ふと口を開く。
「そーいえば二人とも、まだ帰らないんスか?」
「僕は手塚を待ってるからね」
にっこり微笑う不二とは対象に、菊丸は気まずそうに視線をそらす。
そんな菊丸の態度に、越前が口を開きかけたその時。
カチャリ
ドアの音に眼をやればそこには手塚の姿。
「まだ残っていたのか」
「部長、お疲れっス」
「越前はコートの整備。英二は僕に恋愛相談してたから遅くなったんだよね」
にっこり微笑う不二のセリフに、菊丸は真っ赤になる。
「ちょ、不二!! もうっ!! 手塚と早く帰んなよ!!」
「ハイハイ。じゃあ越前、また明日ね? 手塚、行こうか?」
手塚と部室を後にする不二を見送って、菊丸は真っ赤な顔のままその場にへたり込んだ。
「…菊丸先輩」
「ん~、にゃに? おチビ」
俯きながら話しかける越前に、真っ赤な顔を押さえながら菊丸は答えた。
「…先輩、彼女いたんスか?」
越前のセリフが微かに震えていることに菊丸は気がつかない。
その菊丸は少し寂しそうに苦笑を漏らす。
「……いないよ」
そんな寂しげな口調に気がついたのか、越前は座り込んだままの菊丸の方を向く。
「えっ? でも不二先輩が…」
「う~ん…恋人はいないよ? 好きなコはいるけど、見込み…ないんじゃないかなぁ…」
辛そうに眼を伏せる菊丸に何とも声をかけられず、気まずい沈黙が流れる。そんな沈黙を破ったのは、パッと顔をあげた菊丸。
「ねぇおチビ、今日一緒に帰ろ?」
「え? でも方向…」
「いーの!! それともおチビ、俺と帰んの…ヤダ?」
猫耳がついていたら、間違いなく垂れ下がっているであろう菊丸の落胆した様子に、かけられる言葉は一言しかなかった。
「別に…イヤなワケじゃないっス」
帰り道。他愛もない話をしながら、二人は歩いていた。
越前がふと横を見上げると、楽しそうな菊丸の姿。その姿にちょっとホッとする。
先ほどまでの菊丸は自分が知っている菊丸ではない。
考えはどんどん変わっていく。
菊丸の今の様子から、菊丸が好きだという人の事へ。
どんな人なんだろう…?
優しい人?
綺麗な人?
そんな事ばかりが頭を過ぎっていて、菊丸の呼びかけに気がつかなかった。
「おチビってばっ!!」
慌てて菊丸の方を向けば、ちょっと拗ねた表情。
「スイマセン…」
「もうっ。なんか悩み事? 俺でよかったら聞くよ?」
「…別に、大した事じゃ…」
「ホントに?」
少し心配そうに覗き込んでくる菊丸の眼を避けて…。
「そんなコトより先輩」
「なに?」
「告白、しないんスか?」
「えっ!? ん~…告白…かぁ」
少しの間思案顔になるがちらりと越前の方へ視線を向けると、何を決意したのか真面目な顔で越前を覗き込む。
「ね、おチビ。ちょっと公園寄らない?」
「今からっスか?」
「うん、今から」
越前が聞き返すのも無理はない。辺りはすでに真っ暗で、空には星が瞬いている。
でも…答えは決まっていた。
「いっスよ」
「ハイ、おチビはファンタね」
「どもっス」
差し出されたファンタを受け取り、口をつけると甘い味が広がる。隣を見ると菊丸はカフェオレに口をつけていた。
「…ねぇおチビはさ、好きなコいるの?」
ポツリと呟くような問いかけに、越前はファンタを落としそうになる。
自分の頬が微かに赤くなるのを感じながら、目線を逸らす。
「何なんスか、いきなり?」
「いーから答えて」
ごまかそうとする越前だったが、菊丸の追求に諦めた。
「…いるっスよ」
「そっかぁ…」
そう呟く菊丸はいつもの菊丸ではなくて…越前はどうしたらいいのか悩んでしまう。
「さっきさ…俺好きなコいるって言ってたじゃん?」
菊丸の急なセリフに驚きつつも気になっていたのか頷く越前。
「俺ね、一目ボレだったんだ」
淡々と話し始める菊丸の言葉を越前は黙って聞いていた。
「ずっと好きだったんだよ? 見込みはないかもしれないけどさ、おチビに『告らないの?』て聞かれてさ、やっぱ伝えたいって思った。たとえダメでも…知ってほしいって」
少し切なそうに言う菊丸に、一瞬眼を奪われながらも、越前は眼を伏せた。
「……告白…するんスか?」
「…うん、する」
「……がんばって下さい。菊丸先輩なら、大丈夫っスよ」
決して菊丸を見ずにそう呟く越前の前に立つと、菊丸は大きく息を吸った。
「好きだよ」
「えっ?」
「俺はおチビの事が好きだよ?」
「…う…そ」
呆然と眼を見開き、呟く越前に菊丸は優しく笑いかける。
「おチビの事がずっと好きなんだ。誰よりもおチビを見てきた」
真摯な眼で見られ、越前は不覚にも泣きそうになるが、それでも口を開こうとする。
「あの…俺」
「俺ね、ホントは言う気はなかったんだ。でも…知ってほしいって思っちゃった。ごめんね?」
越前の言葉を遮る菊丸の笑顔は少し切なくて…。いつもの笑顔で笑ってほしかった。だから、伝えようと思った。
伝えたら…いつもみたいに…
俺が好きになった笑顔で笑ってくれますか…?
俺が好きになった笑顔で笑ってくれますか…?
「……ないで…」
「え?」
「謝らないで下さい。俺だってずっと菊丸先輩を見てきたから。ずっと菊丸先輩が好きだったんです」
リョーマの言葉に菊丸が見せたのは、驚いた表情と、いつも以上に嬉しそうな…優しい特別な笑顔。
そんな二人を見守るのは、輝く星空のみ――。
ずっとあなたのコトが好きだった
この想いが届くことはないのだと
何度も諦めた
輝く星空の下で
あなたと想いが通じたこの日の事は
きっと二人の大事な思い出
また一緒に帰ろうね
そしてたくさんの思い出を作ろう
俺達の想いが通じた
この星空の下で
END
この想いが届くことはないのだと
何度も諦めた
輝く星空の下で
あなたと想いが通じたこの日の事は
きっと二人の大事な思い出
また一緒に帰ろうね
そしてたくさんの思い出を作ろう
俺達の想いが通じた
この星空の下で
END
初書き 2002/08/08
加筆修正 2014/04/30
加筆修正 2014/04/30