雨、やみませんね 抹茶さんVr
「すいません、一緒に雨宿りいいですか?」急な雨にお店の軒先で雨宿りしていた少女は、声に視線を上げた先にはずぶ濡れの少年。おそらく、自分と同じように急な雨に逢ったのだろう。
小さく「どうぞ」と頷いて入りやすいように少し横にずれると、入ってきた少年は会釈して横に並ぶ。
自分よりもびしょ濡れな姿を横目に見やると眼鏡も濡れているのに気付いてしまった。少し悩んでから、まだ無事だったハンドタオルを鞄から取り出してそっと差し出す。
「あの、よかったらどうぞ」
「え? あ、あぁ、すいません」
驚いた様子でも拒絶する事なく受け取った少年は、やはり最初に眼鏡を外した。眼鏡を拭いている様子を横目に見つめ、逡巡した後で少女は小さく口を開く。
「奥村雪男、くん…ですよね?」
「え?」
「え、と…有名、だから」
確認するように小さく問いかけた言葉に、きょとんとした存外幼い雰囲気で視線が向けられる。それを「どうして知っている」という意味と受け取った少女は少し視線を彷徨わせてから俯きながら答えた少女の表情は見えない。
そのまま、少しの間、雨音だけが二人を包むが、少しして俯いたままの少女の耳に違う音が届いた。
「これ、ありがとうございます。ちゃんと洗ってお礼をしたいので、名前を伺っても?」
少女が視線を向けると、手に先ほどのハンドタオルを持ったまま、穏やかなのにどこか作ったような頬笑みを浮かべた雪男。何故か見ていられなくて視線を再び落とした少女は言葉を返す。
「あ、はい。抹茶。です」
「抹茶。さん、ですね」
確認するように名を呼ぶと、いまだ止む気配を見せない空に視線を向ける少年の気配につられて視線を空へと向ける少女。
「雨…やみませんね」
「もう少し、雨宿り、しませんか?」
そんな小さな二人の言葉は、雨の向こうにまでは届かない。
急に降りだした静かな雨が降り続ける日の、そんな小さな一日。
END
初書き 2011/11/25(多分)